2026.08 街は、いつ社会になるのか


4:38

丘の上。

左右にはまだ暗い森があり、その間に街が広がっている。

建物の灯りがところどころ残っている。

この街には、普段暮らしているから知っている形がある。

どこを電車が通り、どのあたりに川があり、どこで道路がそれを渡っているのか。

けれど、ここから見ているだけでは、そのすべてがはっきり見えるわけではない。

まだ街は静かだった。

ときどき遠くに車の灯りが動く。

聞こえているのは、主に虫や鳥の声だった。

街はそこにある。

建物もある。

道路もある。

けれど、この時間の街を見ながら、ふと思う。

街は、いつ社会になるのだろう。


4:50

空が赤く染まっていた。

街の上に広がる雲の一部が、強く赤みを帯びている。

さっきまで周囲を照らしていた人工灯は、もう消えている。

それでも、街そのものが大きく動き始めたようには見えない。

目に見えて大きく変わっていたのは、空だった。


5:06

16分後。

さっきまで広がっていた赤は、もうほとんど残っていない。

空は青白くなり、雲の形がはっきりしている。

街の輪郭も、少しずつ見えやすくなってきた。


5:21

電車が走る。

ここから線路そのものは見えない。

けれど、街の中を電車が通ることで、普段暮らしているから知っている二つの路線の位置が浮かび上がる。

それぞれ違う方向へ、電車が進んでいく。


5:32

遠くの車の動きも、先ほどとは違っていた。

川を渡る橋では、前にはときどき一台のライトが通り過ぎる程度だった。

今は、信号を待つ数台のライトが並んでいる。

手前の道路には、散歩をする人の姿もちらほら見える。

電車が走る。

車が動く。

人が歩く。

虫や鳥の声は、まだ聞こえている。

なくなったわけではない。

ただ、街の音が大きくなったぶん、それまでよく聞こえていた虫や鳥の声は、小さく聞こえた。


何時だったのか

4時38分。

4時50分。

5時06分。

5時21分。

5時32分。


写真を撮った時刻は分かる。

空が赤く染まっていた時刻も。

電車が走る時刻も決まっている。


けれど、

街は、いつ社会になったのだろう。


電車が走ったときだろうか。

橋に車が並んだときだろうか。

人が歩き始めたときだろうか。


それとも、4時38分に丘の上から見ていたあの街も、

すでに社会だったのだろうか。




5:37

その場所を離れた。

少し歩いたところで、それまでより広く街を見渡せる場所を見つけた。

さっきまで左右にあった森がなくなり、街が横に大きく広がっている。


帰りにコンビニへ寄った。

店には二人の店員。

中年の男性と、若い女性。

時間帯からすると、夜勤明けなのかもしれない。

男性のほうが、少し話しすぎているように見えた。

でも、特別珍しい光景でもない。

どこにでもありそうな、

いつものコンビニの朝だった。

Masafumi Yoshimoto web site

シンガーソングライター吉本昌史の公式サイト。 自然、記憶、そして旋律にのせて、物語を音にして届けています。

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